玉

 それは僕が生まれた時に、僕と一緒に出てきた。母親のお腹から僕と一緒に、大きな塊として出てきた。産声をあげながら、僕はそれを大事に抱えていた。
 僕はその大きな塊といつも一緒だった。どこにいても、なにをしていても、誰といても、その塊は必ず僕のかたわらにあった。
 僕が小さい頃、その塊がどんな形だったのかはもう記憶に無い。玉でなかったのは確かだ。
 そして僕は成長し、その塊を削ったり磨いたりした。一生懸命なにかの形にしようとした。
 周りのみんなもそうしていた。それぞれ、自分のやり方で、自分だけの形に。時には見せあって語ったり、時にはお互いの塊をぶつけあったりもした。
 そうしてだんだんその塊は丸くなった。塊は玉になった。他人が見てどう思うのかわからないけど、とりあえず玉だ。もちろん完全な球体では無い。だけど、その丸み、いびつな感じ、不均一な輝き、満足してるところも不満なところも、それら全てがつまりは自分自身だから。
 大人になってその玉をいじることはあまりしなくなったけど、これまでの作業で結構いい形になったと思う。ポケットに収まる大きさになったので、今でもいつも一緒だ。時々取り出しては、現在の自分の姿を映したりする。

 だけど最近気付いた。この玉は、実は中空になっている。
 いや、でもおかしい。はじめから中空であれば気付きそうなことだ。僕は塊を玉にしようと最初から決めていたわけではないのだから。作業をやめてから、玉になにかあったのだろうか?中身が抜け落ちてしまったのだろうか?
 いや、そんなことより、なぜ中空なのだろう?なにかを入れるのか?なにかの容れ物にするのか?
 周りと見せあうことも無くなっていたので、気がつかなかったのか?そういえば昔の友達に、塊に何かを詰め込もうと躍起になってる奴がいたような気もする。
 僕はあわてて、どこかに口が開いてるのか探してみた。だけど、どこにも口が無い。よく探してみたけど、小さな穴すら無い。
 中身が抜け落ちたのならどこかに穴があるはずだ。容れ物ならばどこかに口があるはずだ。
 気付くのが遅かったのだろうか?塞がってしまったのだろうか?
 このままじゃ僕の玉は空っぽなままだ。

 なにかを流し込もうとしても、僕の玉には入れる口が無くてつるつると周りへこぼれてしまう。削る時についた傷に、少したまるぐらいだ。
 どうしよう。今さら捨てることも壊すことも出来ない。